レビュー『恋する(おとめ)の作り方』第1巻【英語版】
万丈梓先生の『恋する(おとめ)の作り方』(英題:I Think I Turned My Childhood Friend Into a Girl)
第1巻が、Seven Seas Entertainmentから2022年5月31日に英語版として発売されました。
翻訳者はMiki Zさん、翻案はMatthew Birkenhauerさん、文字入れはElena Pizarroさんです。
原作は、2020年2月よりpixivコミックにて一迅社が「comic POOL」名義で連載し、
現在、日本では全4巻が発売されています。
コスメ大好き男子の御堂健士郎と、幼馴染(♂)の日浦美果にメイクをしたらの話です。
今回は、第1巻の英語版をレビューし、原作と比べてみる。
(※ep5.③から英語版が告知したまでの間、ファン翻訳をしました。
日本語はまだまだですから、ミスを許してください。)
更新(2022年6月10日):Seven Seasは対応を検討中です。
更新(2022年7月19日):Seven Seasは公式声明を出しました。
人称代名詞の使用について
英語には人称代名詞があって、he/himは男性、she/herは女性です。
人称代名詞を使えば、英語の文章では主語と目的語の性別を指定されないことは不可能です。
例えば、「リンゴを食べた」の主語を考えてみてください。
日本語には誰が食べたのか、そしてその方の性別なども不明です。
英語には、「He ate an apple(彼がリンゴを食べた)」か
「She ate an apple(彼女がリンゴを食べた)」とかに翻訳して必要です。
英語版では、最初には日浦に関して男性の人称代名詞が使ってし、
ep1.①(35ページ目)から女性のが使います。
御堂は、ep2.①(55ページ目)まで男性のを使いますが、
キャラ全員はep4.①(85ページ目)から女性のが使いました。
2021年5月のpixivisionのインタビューの英語版(日本語版はこちら)では、
日浦が「ヒロイン」と呼ばれていることについて、
そこの翻訳者が下記のように指摘しています。
(* Translator’s Note: While Hiura is affectionately called a “heroine” as a reference to his crossdressing, he clearly identifies as male in the Japanese text, even while wearing stereotypically female clothing. As such, he/him pronouns are used in this article.)
(※訳者注:日浦は女装していることにちなんで「ヒロイン」と愛称されているが、
原作では、典型的な女性の服を着ていても、明らかに男性だと自分で言っています。
そのため、本記事ではhe/himの人称代名詞を使用します。)
個人的には、上記の評価に賛成です。
日浦はいつも「僕」を使い、
女装を始めた後も女ではなく男だと自分で言っています。
- 第1巻 episode 5.③
「えー、だって男だよ、僕。」 - 第1巻 special 2
「…いや、僕も男だから知ってるけど…」 - 第2巻 episode 10
「こんな格好してるけど僕女の子じゃないんだって!」 - 第2巻 episode 14
「あの…僕、こんな格好してるけど男なので…」
ep0.①
日本語 | 英語 | 直訳 |
あれは昨日発売の アンジュの 新作リップ…!! | The new Anjo lipstick just dropped yesterday!! | アンジョの新作リップが 昨日発売!! |
「アンジュ(Anju)」は、「アンジョ(Anjo)」と間違えましたかもしれない。
アンジュは、フランス語で「天使」を意味しますかもしれない。
韓国のコスメブランド「ANJO」だと思いましたかもしれない。
日本語 | 英語 | 直訳 |
天屋のラーメン おごり3回 | Buy me… three ramens at Tenka. | 僕に買って… てんかのラーメンを三つ。 |
天屋の「屋」は「や」「おく」「た」と読めます、「か」ではなく。
同巻のspecial 1にも「Tenka」とよばれる。
「屋」を読み間違えましたか、商標権侵害を避けますためかもしれない。
ep0.⑤
日本語 | 英語 | 直訳 |
僕が 女の子みたいに 変身した途端… | Ever since I came out as a girl… | 女の子だと カミングアウト して以来… |
英語版には、「カミングアウト」として書き換えられています。
日浦がトランスジェンダーであることを暗示しています。
日本語 | 英語 | 直訳 |
こうして僕は 『女の子』に なることを 決意した | And just like that, I decided to become a girl. | そしてそのまま 女の子に なることを 決意した |
英語で、引用符は皮肉の引用符として使われることが多いので、
ここでは入れない方がいいだと思います。
描き下ろし
日本語 | 英語 | 直訳 |
日浦美果(♂) | Hiura Mihate (♂) | 日浦美果(♂) |
日浦が♂であることは、まだ書かれています。
日本語 | 英語 | 直訳 |
【御堂】 直感 | Mido It means “to be intuitive.” | 【御堂】 「直感的なる」という意味 |
「御堂」は「直感」という意味ではありません。
直感で「御堂」と名付けられたことです。
ep1.①
日本語 | 英語 | 直訳 |
えー、というわけで 日浦は今日から この格好で 学校に通うことに なったから みんなも よろしくなー | Before we begin… Starting today, this is how Hiura will be presenting. Make sure she feels welcome. | 始める前に… 今日から、 日浦は こうやって 発表していく。 ちゃんと 彼女に歓迎しなさいな。 |
…よろしく おねがいします | Nice to meet everyone… again. | みんなに… 再び会えて嬉しいです。 |
「格好」は「presentation」と翻訳していいんですが、
英語版では「ジェンダー表現」を連想させる言い方を使います。
ちなみに、日浦が女性の代名詞で呼ばれるのは、これが初めてです。
「よろしくお願いします」を翻訳は難しいので、直訳はちょっと違います。
ep1.③
日本語 | 英語 | 直訳 |
中学で付き合う友達のタイプが変わってから あいつは学校で俺から距離を取るようになった 家に帰れば変わらない日々 | My clique changed in junior high. He distanced himself from everybody in school. Even if everyone was the same as always back home. | 中学で俺の仲間が変わった。 彼は学校のみんなと距離を取った。 家に帰ればみんないつもと変わらないのに。 |
2行目と3行目が「みんな」を指すように変更されたため、
2行目の意味が変わり、3行目が無意味になってしまったのです。
描き下ろし
日本語 | 英語 | 直訳 |
男の娘+タイツ | A Boy♀ + Tights | 男の子♀+タイツ |
「男の娘」を翻訳のはとても難しいです。
この訳は、「男の子と読むが、♀みたい」という点を表現しています。
ep3.①
日本語 | 英語 | 直訳 |
ただでさえ 女子の中に入るの ちょっと 恥ずかしいのに | I still feel weird mixed in with a bunch of girls. | やっぱり 女子の中に 混じっているのは 変な感じ |
まー しゃーない… | Keep trying your best. | がんばって |
他の男子が すごくやりにくいので 女子体育へ | You just can’t beat us guys, Hiura! | 俺たち男子には 勝てない、日浦! |
手書きの台詞は、ナレーションか先生のセリフの感じです。
英語版では、日浦の嘲笑と書き換えています。
日本語 | 英語 | 直訳 |
見た目は女の子 だってこと、もっと 自覚しろって…! | If you’re gonna be a girl, try acting like one! | 女の子になるん だったら、女の子 らしくしてみろ! |
御堂の主張は、日浦の「見た目は女の子」から
「女の子になるの」に変えてしまいました。
ep3.②
日本語 | 英語 | 直訳 |
だから、お前がその格好で学校来てるの ほんとすげぇよなって 隠すどころかむしろ自慢してーよ 俺の幼馴染すげーかっこいいってさ | Then you started coming to school like this. That’s some amazing confidence! You’re brave enough to be yourself! That’s just… insanely cool! | そして、お前がこうして学校に来ること始めた。 それってすげぇ自信よな! お前が自分らしく、勇気をもって! それはもう…すげーかっこいいって! |
御堂が日浦のことを自慢したいより、御堂が日浦の自信と勇気を褒めます。
次の話にも、「隠すどころかむしろ自慢してーよ」のセリフが
現れますから、そこにもトーンが変わってしまいました。
描き下ろし
日本語 | 英語 | 直訳 |
日浦の学校あれこれ | Random Stuff about Hiura’s School | 日浦の学校について適当なこと |
更衣室 | Changing Room | 更衣室 |
職員室横の空き教室を使わせてもらっています。 | They let her change in an empty classroom beside the teachers’ lounge. | 彼女は職員室横の空き教室で着替えさせてもらっています。 |
トイレ | Bathroom | トイレ |
この学校にはいくつか多目的トイレがあるのでそこを使っています。 | She uses the private bathrooms available throughout the school. | 彼女は学校中にある個室トイレを使っています。 |
校長先生の方針でかなりフリーダムな学校です | The school’s principal is fairly progressive! | 校長先生がかなり進歩的な方です! |
自由に生きなさい若者よ | Live your truth, kids! | 自分の真実を生きろ、子供たちよ |
感謝… | Thanks so much! | ありがとうございました! |
校長 | Principal | 校長 |
生きてます | He’s still alive. | まだ生きてます |
「フリーダムな学校」より、校長先生自身が政治的に「進歩的な」人だと変わりました。
前と同じく、日浦が女性の代名詞で呼ばれる。
ep5.②
日本語 | 英語 | 直訳 |
はぁー… 遊びにいく服で悩むってなんだよ リア充かよ… | Ugh… Freaking out over a stupid outfit… Is this a social life? | うわ… くだらない服装で大騒ぎして… これは社会生活か? |
「Is this a social life?」は、なんか不器用だと思います。
「社会生活を持ってることはこんな感じなのか?」みたいなことを言いたいみたいですが、
なんとなく言い出していませんでした。
ep5.③
日本語 | 英語 | 直訳 |
ナンパか… | Typical sleazebags. | ただのゲス野郎。 |
話が通じない… なんなのこいつも勧誘?? | They’re so dense. Are they really hitting on me?! | 鈍いなぁ。 本当にこいつらが僕をナンパしてるの!? |
チャラい… | Sexist pigs… | 性差別の豚野郎め… |
危うく変な商材とか売りつけられるところだったよ… | They almost roped me into buying some weird product. | 変な商品を買わされそうになったよ。 |
いや、普通にただのナンパと思うけど… | Uh… They were flirting with you. | えっと…彼らがお前をナンパしてるよ。 |
御堂に1行目は、「ゲス野郎」として悪口して変えました。
日浦の思いは、「性差別の豚野郎」は自分が女の子としてナンパしてことを知ってるに変えました。
日浦はもう理解すれば、次の会話が通じない。
ep5.⑦
日本語 | 英語 | 直訳 |
女の子の格好で出かけるのも思ったより悪くないかも | Maybe going out all femme won’t be bad after all! | フェムで出かけるのも悪くないかもしれない! |
英語版では、LGBT+者間で用いられるの言葉、「femme」を使います。
「フェム」は、格好は女性的なのを意味するのです。
special 1
日本語 | 英語 | 直訳 |
えっ… これ、もしかして… 押せばいけるんじゃ…?? まじ? ガチで好みなの?? え?? | Huh? Could it be…? Does he like me?! No way!! He really likes me?! What?! | えっ? もしかして…? 彼は僕が好きなのか!? まさか!! 本当に彼は僕が好きなの!? 何!? |
英語版では、日浦が御堂は自分が好きだと気づいています。
原作では、日浦が御堂はこの格好が好きだと思います。
日本語 | 英語 | 直訳 |
…でも、御堂が女の子?の前であんなドギマギするの初めてな気がするし キモがられてる様子はないし… | …But I’ve never seen Mido so flustered in front of me. And he didn’t seem creeped out. | …でも、御堂が僕の前であんなドギマギするの初めて見た。 しかも、キモがられてる様子はなかった… |
日浦が自分のことを「女の子?」と言わないように、
書き換えられていました。
special 2
日本語 | 英語 | 直訳 |
俺は違うけどな 思春期男子は獣だぞ!! | But–aside from me–adolescent boys are pigs!! | でも——俺以外——思春期男子は豚だぞ!! |
…いや、僕も男だから知ってるけど… | I’m pretty familiar with the concept– | 僕もその観念をよく解ってる—— |
俺は違うけどな!!? | Except me, of course!! | もちろん、俺以外な!! |
英語版では、日浦も男だと言ってるのを消しました。
あとがき
日本語 | 英語 | 直訳 |
初投稿作・デビュー読み切りとコソコソと男の娘ものを描いて来ましたが、まさか連載させていただけるとは思ってもいませんでした。 | I’ve been slipping my debut story of a boy turned girl into weekly published comics for a while, but never dreamed I’d get to publish an actual collection. | 男の子が女の子になっての私のデビュー話を週刊誌のコミックスに滑り込みましていますが、まさか本物のコレクションをさせていただけるとは思ってもいませんでした。 |
あとがきの最初の文章で、「初投稿作」「デビュー読み切り」「連載」が混同されています。
「男の娘」が「男の子が女の子になって」になりました。
結論
誤りは必然ので、多少のミスは許される。全巻のほとんどは問題無し。
セリフ一つずつは、翻訳は合理的で、自然に流れる。書き変えも同じ、単独で考えば。
作品全体としては、問題が現れる。
Seven Seasが「LGBT+ romantic comedy(LGBT+ラブコメ)」として売り出したら、
原作の人物のアイデンティティーと合わせばは大事、特にキャラが自分で言ってることも。
その代わり、LGBT+の言葉を利用して、原作にはない日浦がトランスジェンダーだと示唆した。
日浦が自分で男だと言っても、他の人物が日浦を女性の代名詞で呼ばれる。
もちろん、翻訳はすべて不完全なものだ。
でも日本語版に比べて、英語版が一つの解釈のみを提供し、反証を無視する。
わざとしたのか間違ったのかが分からないが、それでもその違いは明らかです。
それで、もし英語版を読んだら、歪んだ鏡で原作を見ていることを注意してください。
変更(2022年6月6日):「人称代名詞の使用について」にもう一つの引用文を追加しました。
更新(2022年6月10日):Seven Seasの反応を追加しました。
更新(2022年7月19日):Seven Seasの公式声明を追加しました。